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東京地方裁判所 昭和54年(行ウ)97号 判決

原告

森田優

外四名

右原告ら訴訟代理人

西尾孝幸

山嵜進

被告

東京都千代田区

右代表者区長

加藤清政

右指定代理人

山下一雄

外四名

被告

東京都知事

鈴木俊一

右指定代理人

吉田博明

外一名

主文

1  昭和五三年(行ウ)第一六八号事件、同五四年(行ウ)第九七号事件各原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は同原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一請求の原因1ないし4の事実〈編注、原告らの異議申立、審査請求とその却下決定〉は当事者間に争いがない。

二原告らは、本件承認は被告千代田区がした法第三二条第一項に基づく道路占用許可処分に当たる旨主張するので、以下この点につき判断する。

1  まず、本件承認に至る経緯についてみるに、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。①営団は、昭和四六年七月三一日付で建設大臣に対し本件敷設許可申請を行なつたところ、東京都首都整備局長は、右申請を受けて同年八月四日付で千代田区長に対し、本件敷設許可申請書、理由書、起業目論見書及び工事方法概略書等の各写を添えて千代田区道へ地下鉄一一号線を敷設するについての意見を求めた(なお、右起業目論見書写には地下鉄一一号線が敷設される道路名及び敷設区間の記載がある。)。そこで、被告千代田区の土木部管理課及び道路課で右意見照会につき検討した結果を踏まえ、昭和四六年九月一四日付で前記首都整備局長に対し、千代田区道への敷設については支障はない旨区長名で回答し、営団は建設大臣から昭和四七年三月三〇日付で本件敷設許可を受けた。②続いて営団は、本件敷設許可に付された命令書の第二条に基づき昭和四七年四月一一日付で建設大臣に対し本件施行認可申請を行なつたところ、東京都首都整備局長は、右申請を受けて、同月一七日付で千代田区長に対し、本件施行認可申請書、理由書及び工事方法書の各写を添えて千代田区道での地下鉄一一号線の工事施行について意見を求めた(なお、右工事方法書写とこれに添付された図面には、地下鉄施設の構造及び基本的な工法の記載がある。)。そこで、被告千代田区は、前同様の検討をし(ただし、本件敷設許可についての意見照会については区長決裁で処理したが、右照会については土木部長決裁で処理した。)、昭和四七年六月二七日付で前記首都整備局長に対し、千代田区道での工事施行については支障はない旨回答し、営団は、昭和四八年三月二七日付で建設大臣から本件施行認可を受けた。③さらに営団は、本件施行認可に付された条件2において、「工事の施行にあたつては、工事の順序方法等について詳細な設計図書を作成し、これを道路管理者に提出してその承認を受けること。」とされていたことから、まず、昭和四八年七月一八日付で永田町・大手町間について承認申請をしたところ、被告千代田区は、地下鉄一一号線の右区間沿線住民の反対等のため右承認申請を保留した。そこで、営団は、昭和五三年七月一〇日付で新たに永田町・三番町間につき工事施行方法説明書及び図面(これらの書面には、工事区間、施行方法の詳細及び道路復旧方法等が記載されている。)を添えて本件承認申請を行なつたところ、被告千代田区においては、本件承認申請を土木部管理課、道路課及び公園河川課で検討したうえ、区長決裁を経て昭和五三年七月二七日付で本件承認を営団に与えた。以上の①ないし③の事実が認められ(ただし、本件敷設許可、施行認可及び承認が営団に与えられた事実並びに各日付は当事者間に争いがない。)、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  ところで、原告らは、本件承認が法第三二条第一項の道路占用許可であると解すべき旨主張するので、まず、地下鉄による道路の占用につき占用許可が必要であるか否かの点について考えてみる。

(一)  まず、地下鉄の敷設についての準拠法の点であるが、軌道法による軌道は、一般交通の用に供するため、原則として道路に敷設されて、道路交通の補助的機能を営むものであり、例えば路面電車のように、比較的少量、低速の輸送を本旨とする交通機関である。これに対し、地方鉄道法による地方鉄道は、一地方における交通を目的として公衆の用に供するため、原則として道路外に敷設されるものであり、比較的大量、高速の輸送を本旨とする交通機関である。

ところで、現在における地下鉄は、原則として道路に敷設されるものとはいえないし、路面下に敷設されることはあつても、一般に道路交通の補助的機能を営むものとはいえず、都市及びその近郊における交通を目的とする比較的大量、高速の輸送を本旨とする交通機関であつて、最近においては、いわゆる相互乗入れによつて、他の地方鉄道と一体化した交通の機能を営む場合も少なくない。

以上に述べたところに徴すると、地下鉄ことに本件における東京都市計画高速鉄道第一一号線については、その実態及び機能からみて地方鉄道としての性格を有するものであり、地方鉄道法によつて規制されるべきものと解するのが相当である。

(二)  ところで、軌道を敷設して運輸事業を営もうとする者は、主務大臣(建設大臣及び運輸大臣、軌道法施行令第一条)の特許を受けなければならない(軌道法第三条)が、右特許を受けた者は、軌道敷設に要する道路の占用について道路管理者の許可又は承認を受けたものとみなされる(同法第四条)。また、軌道経営者は、主務大臣の指定する期間内に工事施行の認可を申請しなければならないが(同法第五条一項)、工事施行の認可を受けた軌道経営者は、道路に関する工事につき道路管理者の許可又は承認を受けたものとみなされる(同法第六条)。

一方道路法は、第三二条第一項第三号において、鉄道、軌道を道路に設けるときは道路管理者の占用許可を必要としているほか、これとは別に、敷設工事のための道路の占用についても道路管理者の占用許可を要求している(法第三二条第一項第七号、道路法施行令第七条第二号、第三号)のであるが、前述したところからすれば、軌道事業の特許及び工事施行の認可を受けた軌道経営者は、右いずれの占用許可を得ることも必要でないことになるのである。

(三)  そこで、次に、地下鉄一一号線について適用される地方鉄道法について考えるのに、地方鉄道は、原則として道路に敷設することはできないのであるが、已むことを得ざる事由があるときは、主務大臣(地方鉄道法は、運輸大臣の専管であるが、この事項に限り建設大臣が主務大臣であると解されている。)の許可を受けて道路に敷設することが許される(同法第四条ただし書)。なお、この点に関し、原告らは、地方鉄道法第四条の規定は道路面下に敷設する地下鉄には適用がないと主張するが、道路面下の地中部分も道路管理権の及ぶ範囲内である限り道路の一部であると解されるから、右主張は理由がない。ところで、建設大臣の右敷設許可があつた場合に、さらにそのほかに道路管理者の鉄道敷設についての占用許可(法第三二条第一項第三号)が必要かどうかについては、軌道法第四条のような明文の規定を欠くので、必ずしも明らかではない。この点に関し、被告らは、地方鉄道法第四条ただし書は、地方鉄道が道路を縦断して占用する場合、すなわち、道路中心線と鉄道中心線が平行または重なる場合の敷設許可に関する規定であるとし、このような場合に敷設許可を受ければ、軌道法第四条の場合と同様、鉄道敷設についての道路管理者の占用許可を受ける必要はないと解すべき旨主張する。しかしながら、道路法は、第三二条第一項第三号において、鉄道敷設による道路占用について道路管理者の許可を受ける必要があることを明示しているのであるから、明文の規定なしに道路管理者の権限の排除を認めるのは適当でない。さらに軌道法による軌道と比較してみても、軌道は前述したとおり、道路と一体となつて道路交通の機能を補完する比較的少量、低速の輸送機関であるのに対して、地方鉄道は一地方における交通を目的とする比較的大量、高速の輸送機関であるから、本来道路と一体となる性質の施設でもなく、道路の機能を阻害、減殺する可能性の点では、一般に軌道よりも高いと考えられる。したがつて、軌道につき前記のような道路占用許可に関する特則があるからといつて、直ちに、明文の規定なしに地方鉄道についても同様の取扱いをするべきであるとは即断し難いのである。

また、実質的に考えてみても、地方鉄道法第四条ただし書の許可の性質は、講学上の許可(禁止の解除)に当たり、その申請手続をみても、申請書に鉄道を道路上に敷設することを必要とする事由を詳記するとともに、起業目論見書、工事方法概略書、全線路の予測平面図、道路上に敷設すべき線路の予測図、沿線の地勢及び線路選定の理由を詳記し付近の道路、市街等との関係を説明する説明書及び道路上の敷設費の概算書を添付することが必要とされており、右申請に対しては、専ら路線の設定、ことに道路上に路線を設定することの当否という観点からその許否が決せられるべきものとされていると解せられる。一方、道路占用許可は、講学上特許といわれる性質の行政行為であつて、その申請書に明らかにすべき事項は、法第三二条第二項所定の道路占用の目的、期間、場所、工作物、物件又は施設の構造、工事実施の方法、工事の時期、道路の復旧方法等であり、後記認定に係る東京都千代田区道路占用規則(昭和五二年一〇月三日千代田区規則第三三号)第三条で定められている申請書の添付書類も右各事項を明らかにするものである。これらの点からすれば、道路占用許可は、専ら道路管理の観点から許否が決せられるものと解される。したがつて、地方鉄道法第四条ただし書の許可と道路占用許可とは、許否を決するに当たつての判断事項を異にするから、前者があつたからといつて後者が不要となる筋合のものではない。

そもそも、道路の機能に少なからぬ影響を与える可能性のある地方鉄道の道路への敷設について、道路管理者が法的に保障された手続によつて関与することが認められないということは不自然というほかない。道路の機能を補完する性質を有する軌道についてさえ、軌道法第四条により主務大臣の特許を受けることによつて道路管理者の許可又は承認を受けたものと、及び第六条により主務大臣の施行認可を受けることによつて道路に関する工事につき道路管理者の許可又は承認を受けたものとそれぞれみなされる場合においては、主務大臣は道路管理者の意見を徴することが法律上要求され(軌道法施行令第二、三条及び第五条第二項並びに軌道法施行規則第四条及び第一〇条)、道路管理者の利益が法律上手続的に保障されているのに対し、地方鉄道法にはそのような手続は定められていない。被告らは、本件敷設許可に際し道路管理者の意見を徴しており、また、本件施行認可に付された条件により、工事の順序・方法等についての詳細な設計図書が道路管理者に提出されて本件承認の手続がとられたものである旨主張するけれども、右は、いずれも通達等に基づく運用ないし行政手続上の慣行として行なわれているものであつて、法的な保障の裏づけのある手続ではない。なお、日本国有鉄道の行なう事業のための道路の占用については、道路占用許可は必要ではないが、道路管理者との協議が要求されていることも考慮すべきである(法第三五条)。

(四)  次に鉄道敷設工事のための道路の占有についてであるが、(三)において述べた鉄道敷設それ自体のための道路の占用とは、占有の場所、期間及び工作物等の点で異なり、別個の意義、機能を有すると考えられること、地方鉄道法第一六条が道路に関する工事施設について所管行政庁の許可を受けるべきことを定めていること、法第三二条第一項第七号、道路法施行令第七条第二号、第三号が工事用施設、工事用材料による道路の占用について占用許可を受けるべきこととしていること、軌道について前述のとおり軌道敷設についての占用許可と道路に関する工事についての道路管理者の許可を別個に取り扱つていることからすれば、地方鉄道の敷設工事のための道路占用については、地方鉄道法第四条ただし書の敷設許可とは別に道路管理者の許可が必要であるというべきである。被告らは、地方鉄道法第四条ただし書は、地方鉄道が道路を縦断占用する場合に関する規定であり、右ただし書所定の建設大臣の許可を受ければ、道路への鉄道敷設についての占用許可のみならず、敷設工事についての道路占用許可も不要となる旨主張する。しかしながら、地方鉄道法第四条ただし書の許可が道路への鉄道敷設それ自体のみについてのものであることは、前述したところから明らかである。

(五)  以上(三)及び(四)において判示したところは、以下に述べるところからも明らかである。すなわち、法は第三二条第一項第三号で「鉄道、軌道その他これに類する施設」につき道路占用許可を要するものと定めながら、水道、電気等の公益事業の用に供するための道路占用についての手続及び許可基準の特例を定める法第三六条において、地方鉄道による道路占用の場合を右規定の対象としているのに対し、軌道による道路占用の場合を右対象から除外しており、このことは前記の軌道法第四条及び第六条の各規定が法による道路占用許可の特別規定に当たるが、地方鉄道については道路法が適用されることを前提としているものといわざるを得ない。

もつとも、被告らは地方鉄道法第四条ただし書は縦断的占用の場合の規定であり、これに対し地方鉄道法第一六条、法第三六条は横断占用の場合の規定である旨主張しているところであるが、法はもとより地方鉄道法にも縦断、横断なる概念を明らかにした規定はないし(かえつて、法は第三一条、第四八条の三等で道路と鉄道の交差なる概念を用いている。)、両概念は必ずしも明瞭とはいい難いのみならず、もし被告ら主張のとおりとすれば、地方鉄道法第四条ただし書の規定を前提として立法された法第三六条が単に「地方鉄道を……道路に設けようとする者」とのみ規定していることが肯けないから、このような解釈は採用できない。また、被告らは、地下鉄が道路を縦断占用する場合に道路管理者の占用許可を要するとの解釈を採つた場合には、建設大臣が国家的見地から道路への敷設を許可したのに一道路管理者が道路管理の立場から地下鉄敷設を不許可とする事態が生じ不都合である旨主張するが、法第三六条第二項は、地方鉄道のような公益事業については、政令で定める基準に適合する限りは許可を与えなければならないものと定めているところであるから、恣意的に運用される恐れは少ないし、被告らの解釈に従うとしても道路占用許可を要するとする横断占用の場合については、建設大臣の地方鉄道法第四条ただし書の許可があつたとしても道路管理者によつて占用許可が与えられないという事態を完全に回避することはできないのである。さらに、被告らは建設大臣の行なう敷設許可及び施行認可の際に線路実測図及び工事方法書を提出させ審査しているのであるから、実質的にみれば、道路占用許可の審査も行なわれたのと同様であり、このうえさらに道路占用許可を要するとするのは出願者に余分な負担をかけさせることになる旨主張する。しかし、かかる主張は地方公共団体が道路管理権をその固有の権限として有することを考慮すれば、採用することはできない。

以上の検討の結果に照らせば、地方鉄道法第四条ただし書の規定は同条本文で原則として地方鉄道の道路への敷設を禁止しているのを建設大臣の許可により例外的に解除することができる旨規定したにすぎず、右許可によりただちに当該道路占用の特許を付与するものとは解されないものというべきであつて、被告らのこの点に関する解釈は関係各規定のうえからも、また実質的観点からも採用し難いものといわなければならない。

3(一)  そこで、原告らは、本件承認が法第三二条第一項の道路占用許可処分であると解すべき旨主張するので、以上に述べたところに従つて、そのように解することができるか否かについて検討する。まず被告千代田区における道路占用許可処分の手続及び運用についてみる。〈証拠〉によれば、被告千代田区においては、法及び道路法施行規則(昭和二七年建設省令第二五号)を受けて、「東京都千代田区道路占用規則」及び右占用規則を受けた「道路占用許可基準及び道路占用物件配置標準(昭和五二年一〇月三日千代田区告示第四三号)」をそれぞれ定め、これらに従い道路占用許可行政を運用しているところ、これを申請から許可に至る手続及び運用についてみると、おおむね次のように行なわれている。すなわち、前記千代田区道路占用規則第二条によれば、占用許可申請者は別記第一号様式による道路占用許可申請書を区長に提出すべきものと定められているところ、右別記第一号様式は、法第三六条に規定する占用以外の場合に用いる甲と右第三六条の場合に用いる乙に分かれているが、そのいずれにも「道路占用許可申請書」なる表題と「道路法第三二条の規定により下記のとおり許可を申請します。」との文言並びに占用目的、占用物件の種類(乙のみ)、数量、占用期間、占用の場所及び工事の実施方法(乙のみ)等を記載する欄が設けられており、実際の申請においてもほぼ右の様式に従つて行なわれている。そして、右申請書が提出されると、土木部管理課占用係で受理され、同係及び同課計画調整係並びに道路課等の当該道路占用に関係する部署において審査が行なわれ、事案の重要性に応じて区長、助役ないし部長等の決裁(通常は部長決裁)を経て内部的に許否が決せられ、これを受けて区長名で道路占用許可が行なわれる。区長は道路占用許可を行なう場合には、前記千代田区道路占用規則第八条により別記第二号様式による道路占用許可書を交付するものと定められているところ、右様式による占用許可書には、「道路占用許可書」なる表題と「道路法第三二条第一項の規定に基づき、下記のとおり許可する。」との文言並びに前記甲申請書の記載事項に対応して占用目的、占用数量、占用箇所、占用期間、工事期間、占用料及びその他の条件等が当該占用の態様等に従い記載され、末尾に当該占用許可につき千代田区長に異議申立てをすることができる旨の教示が記載されている。そして、前記千代田区道路占用規則第二一条によれば、区長は道路占用許可をしたときには道路占用台帳に記載しておくものと規定されているところ、被告千代田区では右台帳に当たる占用許可台帳を備え付け、許可の都度記録している。以上の事実が認められ、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  次に、被告千代田区における地下鉄に係る連絡占用時の手続及びその運用についてみるに、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。建設省及び東京都は、地下鉄の道路占用につき、従来から、横断占用の場合には道路管理者の法第三二条第一項及び第三六条に基づく占用許可を必要とするが、縦断占用については建設大臣の地方鉄道法第四条ただし書に基づく敷設許可及び右許可に附した命令書の規定による工事施行の認可を受けることにより、鉄道の道路への敷設及び敷設のための工事のいずれもが法的に可能となり、道路管理者の占用許可を必要としないとの解釈を採り、ただ縦断占用の場合には、事業者が工事を施行するに当たつての道路管理者との調整を円滑にするため、工事の施行方法等につき道路管理者の承認を要する旨の条件を施行認可の際に附する取扱いとし、かかる方針に基づき行政指導を行なつてきた。被告千代田区においても右行政解釈に従つて運用してきたのであつて、これを本件地下鉄一一号線についてみると、千代田区神田神保町地区については横断占用に当たるとして前項に認定の道路占用許可手続で処理した事例もあつた。一方、横断占用に当たるとされた場合については、前記1に認定のような建設大臣の敷設許可及び施行認可を経て承認に至る一連の手続で処理されているところ、被告千代田区における本件承認の手続についてみると、まず、営団からの承認の申請は「工事施行方法承認願」によつて行なわれ、これに添付された図書により区道部分に関する地下鉄工事施行の順序、方法及び道路の復旧等に関する事項が明らかにされるが、右承認願には占用目的、数量、箇所、工事期間等の通常道路占用許可申請書に記載される項目の記載はない。そして、工事施行方法承認願は、土木部管理課、道路課、公園河川課等の審査を経て事案の重要性に応じて区長決裁で処理され、「鉄道工事施行承認について」と題する書面で営団に通知されるところ、右書面には専ら工事の進行方法、安全対策及び道路復旧方法等に関する事項が記載されており、道路占用許可書に記載されている占用目的、占用数量、占用箇所、工事期間等に関する事項及び不服申立ての教示の記載はない。また、被告千代田区では、このような承認手続で処理したものについては、前記3(一)に認定の占用許可台帳には記載しない取扱いとされている。そして、被告千代田区においては、以上の横断占用及び縦断占用に係る処理手続は異なる手続として取り扱われており、前記の手続担当者間においても、縦断占用の場合にも横断占用と同様に法第三二条第一項の占用許可手続を要するとか、あるいは承認手続は右占用許可手続と同一の法的性質ないしは効力を有するとの認識はなく、前記の建設省及び東京都の行政指導に従つていたものであることが認められ、他に以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  そうして、前記1認定の事実並びに3(一)及び(二)認定の事実、とりわけ本件敷設許可から承認に至る経緯、建設省等の行政指導並びに被告千代田区における道路占用許可及び承認の各処理手続等を統合するならば、被告千代田区においては、法第三二条第一項の道路占用許可手続と本件承認の手続とは異なる手続として認識されていたものであつて、被告千代田区が本件承認を道路占用許可処分として行なつたものとは認め難いといわねばならない。

もつとも、〈証拠〉によれば、被告千代田区議会の昭和五一年第一回定例会での質疑の中には、「営団の一部の理事は、地下鉄一一号線の問題は、路線をどうこうとするということではなくて、工事をいかにすすめるかということであるから、路線の問題で話が進められているならば、運輸省等から千代田区長に対し業務促進命令が発せられる旨言外に述べている」とし、この点に関する区長の見解をただしたのに対し、被告千代田区の土木部長は、「同区においては道路法で行なつているから運輸省とは関係がない」旨、また、「工事を止める手段として掘削許可を保留している」旨答弁していることが認められるが、右答弁の事実があるからといつてただちに前記認定の千代田区内における地下鉄の道路占用に関する処理手続の運用実態が左右されるものではないし、右掘削許可なるものが本件承認に当たるとしても、前記認定にかかるその処理手続に照らせば、これが道路占用許可に当たるとすることは困難といわねばならない。また、〈証拠〉によれば、営団は地下鉄一一号線の工事に着手するための手続の一つとして千代田区長の承認が必要である旨述べていることが認められるが、右趣旨は、営団が千代田区道に地下鉄一一号線を敷設工事するためには、道路管理者の承認がなければ法的に不可能であるとの趣旨なのか、それとも事実上円滑な工事の実施が困難である趣旨なのか明らかではなく、これをもつて、直ちに、営団において本件承認が法第三二条第一項の道路占用許可処分であると解していたものとすることはできないといわねばならない。さらに、〈証拠〉によれば、本件承認に付された条件の中には「道路管理者が必要があると認めたときは、工事方法を変更させ、または許可条件を変更することがある。」との条項が認められるところであるが、右条項があるからといつて、前記認定を左右する根拠とするには足りない。

そうすると結局、被告千代田区が本件承認を法第三二条第一項に基づく道路占用許可処分として行なつたものと認めるに足りる証拠はないばかりか、かえつて、被告千代田区においては、前記3(二)に述べた建設省等の行政指導に従い、地下鉄が区道を縦断して占用する場合には建設大臣の地方鉄道法第四条ただし書に基づく許可を以て足り、営団との間で行なう承認の手続は、地下鉄工事の施行を安全かつ円滑に進行させるための事実上の調整措置として理解していたものと認められるのである。

ところで、法第三二条第一項に基づき道路管理者が行なう道路占用許可処分とは、前述のように、道路管理権に基づき道路に一定の施設を設けて継続的にこれを使用する権利を設定し、これを公法上の権利として保護するいわゆる講学上の特許ないし設権行為としての性格を有するものであり、その許可手続は、申請者が法第三二条第二項所定の事項を記載した申請書を道路管理者に提出し、道路管理者は右第二項の第二号ないし第七号までの事項につき政令で定める基準に適合しているか否かを審査するなどしたうえで許可すべきか否かを決定することができるものとされており(法第三三条、ただし、前記のように本件地下鉄のような公益事業については法第三六条第二項により許可が義務づけられている。)許可は格別の要式行為とはされていない。

以上によれば、本件承認が法第三二条第一項の道路占用許可処分に当たるものというためには、本件承認が道路管理者の前記内容のような公法上の権利を設定する旨の意思に基づき、かつ、法第三二条第二項第二号ないし第七号の各事項につき政令で定める基準に適合している旨の判断を包含しているものとみることができることを必要とするものと解すべきである(法第三二、三三条及び第三六条第二項)。

ところで、前記認定の事実によれば、被告千代田区は、本件敷設許可及び施行認可の際の意見照会の機会を通じて、占用の目的、期間、場所及び占用物件の構造等を認識したうえで千代田区道への地下鉄一一号線の敷設及び工事施行につき支障がない旨回答し、また、営団からの本件申請により工事実施の方法、時期及び道路復旧の方法等を認識したうえで、これらの各事項につき詳細な内容を定めた本件承認を行なつているのである。そのうえ、本件承認の被告千代田区内における処理手続(審査担当者及び処理経路等)も道路占用許可手続の場合と基本的には同一であるから、これらの事実によれば、被告千代田区においては本件敷設許可から承認に至る一連の手続を通じて法第三二条第二項各号に記載の事実を認識したうえで千代田区道への地下鉄一一号線の敷設を了承したものというべきであるから、右の占用については法が定める占用許可基準に適合しているとの判断をも前提としているものと推認し得るところである。

しかし、前記3(一)に認定したように、被告千代田区においては、法第三二条第一項の道路占用許可手続は右一連の本件承認に至る手続とは区別された手続で処理されており、このような別箇の手続で処理されるゆえんは、前記3(二)及び(三)に認定したように被告千代田区においては本件承認をなすに当たり建設省等の従来からの行政指導に従い、建設大臣の本件敷設許可及び本件施行認可により営団の道路占用権限が発生し、本件承認は単に営団との間で工事の施行方法等につき調整を図るための手段として行なわれるものと認識していたのであるから、被告千代田区が本件承認を通じて営団に対し地下鉄一一号線を千代田区道に敷設占用せしめる旨の権利を設定する旨の意思を有していたものとは認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠もない。そうすると、本件承認が占用許可基準に合致する旨の判断を包含しているとしても、これをもつて道路占用許可処分とみることはできない。

4  以上の説示によれば、被告千代田区は本件承認を法第三二条第一項の道路占用許可処分として行なつたものではないし、また、本件承認を道路占用許可処分とみることも困難というほかはないから、右占用許可処分に該当するとする原告らの主張は採用できない。

三次に原告らは、仮りに本件承認が道路占用許可処分であるとはいえないとしても、建設大臣の本件敷設許可及び本件施行認可によつては営団の千代田区道への占用許可手続は完結せず、本件承認によつて始めて千代田区道についての具体的占用権限が発生するものであるから本件承認は行政処分性を有する旨主張する。そこで検討するに、既に前項において述べたように、建設大臣は、地方鉄道法第四条ただし書の許可により営団は道路占用権限を取得し、本件施行認可に付された条件により定められた承認の手続は、営団と道路管理者である被告千代田区との間で工事を施行するうえでの調整を図るための手段としての事実上の措置にすぎないとの解釈のもとに本件敷設許可及び施行認可を行なつたものであり、また、被告千代田区においても右解釈に基づく行政指導に従つていたものであるところ、本件承認が道路占用許可処分と解し得ないことは前項において述べたとおりである。そうして前述したところによれば、地方鉄道法第四条ただし書による許可があつた場合でも、さらに法による占用許可を受けなければならないが、だからといつて本件承認を道路占用を可能ならしめる行政処分と解すべき法律上の根拠はなく、原告らの主張は採用できない。

四原告らは、本件裁決は本件承認を道路占用許可処分に当たらないとした点及び原告らに行政不服審査法第二五条第一項による口頭意見陳述の機会を与えることなくされた点において違法である旨主張するので以下この点について検討する。

被告知事が本件調査請求は行政不服審査法第五条第一項各号のいずれにも該当しない不適法な請求であるとし、原告らの申立てにもかかわらず口頭意見陳述の機会を与えることなく本件裁決をした事実は当事者間に争いがない。そして本件承認が法第三二条第一項の道路占用許可処分に該当しないことは前記二に述べたとおりであり、これが条例に基づく処分であるとの主張立証もなく、また、本件承認は被告千代田区が同区道の道路管理者として行なつたものであることはこれまでの説示に照らして明らかであるから、いずれにしても行政不服審査法第五条第一項の適用はなく、したがつて、本件承認についての被告知事に対する審査請求の申立ては不適法である。

ところで、行政不服審査法第二五条第一項ただし書の趣旨は、行政不服審査法は簡易迅速に不服申立人の権利救済を図ることを目的とするところから、その審査にあつては原則として職権による書面審理が妥当するものというべきところ、例外的に審査請求人等から申立てがあつた場合には、それらの者に対し口頭意見陳述の機会を与えなければならないとするものであつて、同規定は事案の実質審理に関するものというべきであるから、実質審理に入るまでもなく不適法として請求を却下し得る場合には右規定ただし書の適用はないものというべきである。これを本件についてみると、本件審査請求は右に述べたように不適法というべきであるから、口頭意見陳述の機会を与えるべきであるとする原告らの主張は採用できない。

五以上の次第であるから、原告らの請求はいずれも失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(藤田耕三 原健三郎 田中信義)

別紙 工事区間道路目録〈省略〉

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